なぜ日本にスパイ防止法は存在しないのでしょうか。国際的にみても、スパイ防止法がない国は珍しいです。そんなスパイ防止法がない理由について考えてみました。
日本にスパイ防止法のような法律は存在しない
日本の現行法制度には、外国のために情報を収集する「スパイ行為そのもの」を直接的に処罰する法律がありません。
- 既存法での対応:
- 公務員による国家機密の漏洩は**国家公務員法(守秘義務違反)や自衛隊法(防衛秘密の漏洩罪)**などで処罰されます。
- 秘密を盗み取った人間を直接罰するには、不正競争防止法や**刑法(窃盗罪など)**の適用を検討する必要がありますが、「スパイ活動」全体を網羅的に取り締まるには不十分とされています。
特定秘密保護法の存在
2013年には、特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)が成立しました。
- これは、防衛、外交、特定有害活動の防止、テロリズムの防止に関する特に重要な情報(特定秘密)の漏洩を防ぐことを目的としています。
- ただし、この法律の主な対象は公務員や、特定秘密を扱う業務に関わる者であり、外国のスパイ活動そのものを広く取り締まる「スパイ防止法」とは性格が異なると見なされています。
要するに、日本にはスパイ活動を防ぐための法律が皆無というわけではありませんが、諸外国に見られるような「外国の利益のために秘密情報を取得・漏洩する行為」を広く、かつ包括的に取り締まる法律(スパイ防止法)は、歴史的な経緯と基本的人権保護の観点からくる強い反対により、成立していないのです。
過去の制定試みと強硬な反対
最も有名な試みは、1985年(昭和60年)に自民党が提出した「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(通称:スパイ防止法案)です。
- 反対の理由:
- 適用範囲の曖昧さ: 「秘密」の定義が広範にわたり、一般の取材活動や市民の日常会話まで処罰の対象になる懸念が指摘されました。
- 密告・監視社会への懸念: 捜査機関による恣意的な運用や、国民がお互いを監視し合う「密告・監視社会」の到来につながるという強い危機感がありました。
- 戦前の教訓: 戦前に存在した軍機保護法などの秘密保護法制が、国民の自由を抑圧し、戦争遂行に利用された苦い歴史の反省から、同様の法律へのアレルギーが強かったという点も挙げられます。
この法案は、国会で審議入りすらできず廃案となりました。
高市政権とスパイ防止法
しかし、高市政権になってから、スパイ防止法が現実味を帯びてきました。
高市氏は、自民党総裁選の公約や各種メディアでの発言において、スパイ防止法の制定を日本の安全保障を強化するための重要課題の一つとして一貫して主張しています。
- 経済安全保障の延長線上: 既に成立している経済安全保障推進法を「第一弾」とし、外国との共同研究やサプライチェーンから日本が外されるリスクを避けるためにも、情報の管理体制、特に**セキュリティ・クリアランス(秘密取扱適格性確認)**の法整備が必要であると訴えています。
- 「スパイ防止法に近いもの」: 外国勢力による技術情報などの流出を防ぐため、従来の特定秘密保護法だけでは不十分であり、スパイ行為そのものを罰する法律、すなわち「スパイ防止法に近いもの」を制定する必要があるとの認識を示しています。
- また、以下政党においてもスパイ防止法を推進しています。
- 日本維新の会: もともとスパイ防止法制定を強く推進する考えを持つ政党の一つであり、高市政権への協力姿勢が議論を後押しする可能性があります。
- 国民民主党: 党内に専門のワーキングチームを設置し、独自のスパイ防止法の原案を公表するなど、具体的な法案化の準備を進めています。
スパイ防止法の是非
筆者としてはスパイ防止法には賛成の立場です。
日本以外の欧米主要国や韓国、台湾などは、通常、スパイ活動や国家機密の漏洩を包括的に取り締まる以下のような法制度を持っています。
- アメリカ: スパイ活動法(Espionage Act)など
- イギリス: 公式秘密法(Official Secrets Act)など
- ドイツ: 刑法(国家を危うくする秘密漏洩罪など)
- 韓国: 国家保安法など
これらの国々では、法体系が刑法の一部であるか独立した特別法であるかの違いはあっても、外国の利益のために情報を取得したり漏洩したりする行為を直接的に処罰する明確な罰則規定が存在しています。
これらのことから、日本はスパイ天国と揶揄されることもあります。
情報戦といわれている今、スパイが野放しになっている現状は、決して看過できるものではないと思います。